人は誰でも失敗したくないと思うのではないでしょうか。じゃあ失敗しないようにするにはどうすれば・・・と思うかもしれませんが、残念ながら人は完璧ではありません。失敗はつきものですし、なんならたくさん失敗してきて成功した事例のほうが多いくらいです。
そこで、ネガティブなイメージのある「失敗」について考え方をガラリと変えてくれる書籍を紹介したいと思います。それが「失敗の科学」です。
これまで企画に関する書籍を紹介してきましたが、企画職は「失敗」が多い仕事だなと感じます。失敗というより「成功した!」がなかなか感じにくく、だんだんとうまくいかない・・・失敗ばかりだ・・・と暗澹たる気持ちになりがちです。
でも、うまくいっていないようで見方を変えれば「うまくいっていないことが分かった」「難しいことが分かった」という前向きな見方も出来ます。このような見方を本書を通じて身に着けていくことが出来ると、仕事の進め方に自信が持てるのでは、と考えています。
本のかんたんな紹介
本書は2016年12月に発売されました。マシュー・サイド著、有枝 春訳。マシュー・サイド氏は本を継続的に出しており、日本訳もされているので、他の本を読んだ方もいるのではないでしょうか。最近だと2024年に勝者の科学といったチームについての説明がなされている本を出版されています。
本書は「失敗」に対して論理的にひも解く本となっています。科学とタイトルにありますが数式が出てくるとかそういったことはありませんのでご安心を。
対象読者
特定の立場にある人をターゲットにしておらず、あらゆる人が楽しめる本となっています。「失敗」とありますが、そこまでいかなくてもうまく行かない事やなにかやりづらい事がある・・・といった方にもヒントになる要素があるのではないでしょうか。
そうでなくても、実際にあった「失敗」をドキュメンタリー形式で取り上げており読み物としてもついつい読んでしまう楽しさがあります。
本書で得られること
一番大きな収穫物としては、「失敗を箇条に恐れない、うまく付き合っていく」というマインドセットを得られることです。これは仕事だけでなく日常の行動に適用出来る考え方なので、前向きなスタンスでいられるようになるのではないでしょうか。
また、他人の失敗にも寛容になれると感じています。特に仕事で部下などが失敗してしまったとき、失敗を責めるのではなく「失敗するという事は、やりづらい手順だったのかもしれない」と、相手を責めるのではなく手順とか仕組みそのものに原因があると、そこに追求しようという考え方も持つ事が出来るようになるのではないでしょうか。
本書を選定した理由
私もこの本を読むまでは失敗はしたくないな、と思っていました。最初読んだ際に選んだ理由はベストセラーだからという理由で読み始めましたが、翻訳本にありがちな回りくどい表現が無く読みやすくさーっと読む事が出来ました。
その結果、「過去に学ぶ」とか「成功者とかは何度も失敗している」とよく聞く言葉を理解出来た気がします。企画職をやっていると、本当に正解がない(または曖昧)で常に試行錯誤です。例えばある領域について調べてみたものの、良い企画アイデアが出なかったという事もあります。
これだけだと「企画アイデアが出なかった、失敗だ」と思ってしまいがちですが、「この領域では難しそうだ、でも調べながらこの辺気になったな」とか「この領域では難しそうだ、ならば周辺も同じでは?ちょっと遠い領域で検討してみるべきでは」という風に、今調べた領域はダメだという事が分かったという成果が上げられたと考えるほうが、ぐっと気が楽になりませんか?
そういう考え方はとてもすてきだなと思い、本ブログでも紹介したいと思った理由です。
本書を読んでみて
印象に残ったこと①過去に学ぶ大切さ
第1章 失敗のマネジメント、では「過去に学ぶ大切さ」と「失敗は手順や環境で改善」がポイントになります。温故知新とか過去に学びましょうは耳にタコが出来るほどよく聞く言葉です。しかも過去から学ぶっていうと、歴史上の人物から学ぶとか大層なイメージがありましたが、よくよく考えれば普段身近な所でやっていますよね。
新しい商品や場所について調べるとき、実際に買ったり行ったことがある人のレビューを見たりするとか、口コミみたりブログを見たり・・・結局それらって「失敗」したくないので、やっている行動であり「過去から学んでいる」。受験やテストでは赤本や先輩から過去問をもらって問題を解くなどの行動をとることもありました。
本書と同じ時期に出版されたサピエンス全史でも、ヒトは過去から学ぶから文明が発達したという記述があります。過去から学ぶ、すなわち知識の継承が出来るのでより良い選択肢へ進み生物として有利になる・・・。と、なんだか話が壮大になってしまいましたが、「過去から学ぶ」と聞くとなんだか大層ですが、個人個人では当たり前のようにやっている事で、なんら構える事はありません。
本書では第1章で、航空業界と医療業界と2つの業界に注目し、「失敗」に対する意識の違いについて述べています。どちらも人の命に直結する大きな業界です。端的に言ってしまうと、航空業界は失敗に対し学ぶ文化があるが医療業界には無いと本書では述べています。航空業界では事故やトラブルがあれば通称ブラックボックスと呼ばれるものを回収し分析を行い、なぜそのような事(失敗)が起きてしまったのかを解明する文化があります。
しかし、医療業界では医療事故があっても解明する文化が無かったのだとか(今ではだいぶ改善され、医療業界でも失敗から学ぶ文化になりつつはあるよう)。
実際の出来事をドキュメンタリー形式で記述され、帯にある「小説のように面白い」とあるように、するする読めます(面白い、は若干語弊があります。失敗してしまった出来事も書かれているので・・・)。
印象に残ったこと②とにかく行動あるのみ
第3章 「単純化の罠」から脱出せよ、は本書を通して一番好きな章です。この章で「あえて失敗する」「とにかく行動」について述べていて、まさにその通りだなと思い印象に残っています。
この章ではあるメーカでの取り組みが紹介されています。粉末状の製品を製造するために使用するノズルがあり、よくノズルの目が詰まるという問題がありました。そこで、数学者チームに依頼。問題を調べ、複雑な計算式を編み出し、そして新たなデザインのノズルが出来た・・・が、問題は解決しませんでした。
次に、ほとんどやけで自社の生物学者チームに相談。彼らはまず目詰まりするノズル10個を用意してわずかに違いをつけて(長さや太さなど)、詰まり方を検証しました。するとほんの少し成果が出たものがあり、その「成功」モデルを基準に改良を繰り返したようです。ついに449回の失敗をして成功!
ここで10個用意したとありますが、これが「あえて失敗する」。生物学者チームはなにも10個全部が成功モデルだと思っていません。どれかは結果が良くて、どれかは悪い(または全部同じ悪い結果かもしれない)かもしれないが、試してみる。そうすることで、良さそう/悪そうのアタリが見つけることができる。
このような試行錯誤、とにかく行動が大切だと本書は述べています。数学者チームも計算式を出すという行動はしていますが、試行錯誤はしていません。結果、「新たなデザインのノズルが1つ出来た。しかし問題は解決しなかった」という事実が残りました。この事実からはどこを改善すればよいか分からないですよね。一からまた計算式を作り出すのかもしれません。
一方、ノズル10個でとりあえず検証し、良さそうなグループ/悪そうなグループと分けてみる事で傾向がつかめれば次の検証に使えます。例えばノズルは長さは10cmがよさそうだ、という事が分かったとしたら、次は長さ10cmのノズルを10個用意し、太さに変化つけたノズルやノズルの出口の形状に変化をつけたもので試行錯誤していく・・・と、良いところを残しつつ過去の知見を次から次へと引き継ぐ事で試行錯誤が出来ます。
この話、どこかで聞いたような気がしませんか?次世代に受け継ぐということは「過去に学ぶ」とも言えます。過去に学び、実際に試してみる。またはあえて失敗してみる。皆さんも多分良くないかもしれないけど・・・と思いながら何か行動をしてみて、予想通り(?)よくない結果が得られれば「あ、これは良くないんだな」と学ぶ経験をしていると思います。
多くの選択肢がある中でドンピシャで成功を見つけたいですが、それはとても困難です。ならば、成功じゃないもの(=失敗)を明らかにしていこう!というマインドで物事を進めていく。これは仕事でも使える考え方ではないかなーと思います。
印象に残ったこと③成長しない人は失敗を「自分に才能がない証拠」と受け止める
第6章 究極の成果をもたらすマインドセットでは、本書の締めくくりにふさわしく失敗から学び成長していくためのエッセンスが述べられています。ここでは失敗から学ぶ事が出来る成長型マインドセットと学ぶことが出来ない固定型マインドセットの2つがあり、成長型マインドセットの人は、
失敗を自分の力を伸ばす上で欠かせないものとしてごく自然に受け止めている
としています。つまり失敗して恥ずかしい!とか自分に大いに失望しネガティブな思いに支配される・・・のではなく、なぜ失敗したのか?じゃあ次はこうしよう、と失敗を健全的に扱う事が出来るのです。一方、固定型マインドセットの人は、
生まれつき才能や知性に恵まれた人が成功すると考えているために、失敗を「自分に才能がない証拠」と受け止める。
す、すごく分かる・・・。失敗を才能という天性のもののせいにしてしまえば、しょうがないよねと諦めがつく。でも、それって思考停止で、そこから何も学べません。だって諦めているので、改善しようとか思わないのでそこで終わりです。
失敗した時についつい「自分には才能がない」「自分はバカなんだ」と思い込む事で自分を慰めようとしてしまうかもしれません。でも、「どうして失敗したんだろう?やり方がよくなかった?」と、失敗した理由を才能という曖昧な概念で閉じ込めてしまうのではなく、具体的な要素に分解してみる事を心掛けてみませんか?
私も結構ネガティブな人間だったのでうまくいかない事があると「なんて自分はダメなんだ・・・」と思いがちでしたが、これって自意識過剰だなと、自分を大きく見積もっているからこそ、そのように感じるのでは?と思うようになりました。ある程度自分に自信があることも必要な能力だと思いますが、それが原因で落ち込んでしまうようではちょっともったいない。
なので、ある程度自分に自信がありつつも、うまくいかなかったときに「あれー、出来ると思ったんだけどな。おかしい、なにがいけないかったんだろう?やり方?タイミング?」と、意識を”自分”ではなく”(失敗した)行為”に向ける、という訓練をしてみるといいのかもしれません。
それでもすぐに結果が出なくても再び行為をしてみて、失敗の原因を見つける&対策をしていくことで、より良い結果やより多くの経験やスキルを身に着けることが出来るはずです。意識を自分に向けたままだと、失敗の原因を見つける事も出来ずただただ自分を責めるだけの苦痛な時間になってしまいます。
また本書では、
成長型マインドセットは「合理的」にあきらめる
とも述べています。成長型マインドセットの人は苦痛なまたは達成が遠い未来のことでもあきらめず延々と取り組むのか、というとそうではありません。成長型マインドセットの人ほど、諦める判断を合理的に行います。例えば、「失敗した原因はこのスキルが足りない事が分かった。今の自分には無いスキルで自分が獲得するには時間がかかりすぎるだろう」と自分の意思で、自由にあきらめるのです。
これも大事な考え方だと思います。例えば、ずっとやってきたからやめたくない・・・と、サンクコスト効果という言葉があるくらい継続したものをやめる事はとても勇気がいることです。そこに継続するのか中断するのか、これも自分なりの理由で決断する事が自分の成長につながるわけです。それぞれ理由があるのだから、継続していれば花が開くかもしれないですし、中断し違う事に挑戦したらそこで花が開くかもしれません。
まとめ
今回は「失敗の科学」でした。実際の出来事をドキュメンタリー形式で読み進める事で、何でこんなことになったんだろう?最終的にはどうなった?と読み進めたくなるような本の構成になっています。もちろんドキュメンタリー形式部分を飛ばし解説(?)部分だけでも学びがあります。
繰り返しになりますが、大事なのは「過去に学ぶ」事に対し謙虚になること。失敗も過去の出来事です。そこからの学びはたくさんあるので、過去から貪欲に学び続ける。
なので、トライ&エラーを行おう!頭の中で色々考える事も素晴らしいですが、実際にモノやコトに触れたりして試してみる。前回のアイデア出しに関する本でも、プロトタイプを作ることの重要性が述べられていました。

頭の中での想像だけでは限界があるので、出来る限り形にしてみて試してみよう。
最後に、自分は才能がないからと自分にフォーカスをあてて思考停止するのではなく、失敗した行為そのものにフォーカスをあてて、健全な思考を行い失敗を有効活用していく、そんな成長型マインドセットになっていきましょう。
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