前回の記事では企画もとい新規事業の進め方についての本を紹介をしました。

上記の本は、成功しやすくなるような企画の通し方・進め方について重きを置いています。今回は、具体的にどんな企画にしようか?というアイデア出しや考え方について参考になった本を紹介したいと思います(補足しますと、上記の本でもアイデア出しや考え方についても触れていますが、今回はアイデア出しそのものにがっつりフォーカスをあてている本になります)。
本のタイトルは・・・「破壊的イノベーションの起こし方 誰でも使えるアイデア創出フレームワーク」です。帯には「誰もがスティーブ・ジョブスになれる!」とキャッチャーな文字が書かれています。スティーブ・ジョブスは説明するまでもない方ですが、ジョブスはそもそもセンスがあったんだ、じゃあこの本もどうせアイデアを出すにはセンスを磨くような本・・・?と思ってしまいそうですが、全くの逆です。逆。
この本で説明されているアイデア出し手法は論理的に行われています。筆者は論理的に説明する事に力を注いでいるので、こういうステップで考え/実践するのね、とステップを踏んでいきやすい構成になっています。アイデアはセンスであり天から降りてくる・・・ではなく、自分からアイデアをつかみに行きましょう!、そんな本です。
本のかんたんな紹介
本書は2021年発行で、筆者は松本勝さん。VISITS Technologies株式会社の代表取締役社長CEOを務めていらっしゃいます。デザイン思考についても書籍を出されていますのでご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一方で、アームレスリングという競技の元日本代表でフィジークという競技に取り組んでいます。マッスル社長です。じゃあ、センスじゃなくてマッスルが無いとアイデアが出せないのでは・・・という事もありませんので、ご安心下さい。
対象読者
本書の対象者は、事業を社内で起こす/これから新しい事業をつくろうという意思がある方となっています。前回の記事で取り上げた本はどちらかというと既存企業に勤めていてそのなかでの進め方について説明がありましたが、こちらはそれらは一切問わず、新しいモノ・サービスを作りたい!という方向けになっています。
また、アイデア出しをしないといけないけど、どうやってやればいいのだろう?とそもそもアイデア出しのやり方が分からず悩んでいる方、色々アイデア出ししたけどなかなかコレ!というものが無く突破口を求めている方、のみならず新しいアイデア出し手法を知りたいなーと好奇心旺盛な方でも楽しめると思います。
本書で得られること
本書は6章で構成されていて、1章ではタイトルにもある「イノベーション」の定義について再確認し、2章では本書全体を通してベースとなるアイデア出しの思考である「デザイン思考」について学びます。3,4章ではアイデアをブラッシュアップする思考として、3章では統合思考を、4章では転換思考を学び、5章では破壊的イノベーションの起こし方、最後の6章ではデータを活用したオンラインサービスの設計といった流れになっています。
タイトルには記載がありませんが、本書はデザイン思考をベースとしたアイデア出しのノウハウが詰まっている本になります。そのため、すでにデザイン思考を学んでいる人には内容が重複してしまわないか?というとそんなことはないでしょう。なぜなら、
他のデザイン思考のアプローチに比べ特に注力しているのは、「より論理的なアプローチを採用し、誰もが再現しやすくしている点」
と書かれており、デザイン思考を異なった視点で見る事が出来ます。また、デザイン思考について学んだが実務的に落とし込む事が出来なかった、といった方にも対象になるのではないでしょうか。
本書を選定した理由
アイデア出しの手法として有名なオズボーンのチェックリストがあります。そういったものを使ってアイデア出しをしてきたのですが、自分の中ではどうもコレ!というアイデアが出せませんでした。またオズボーンのチェックリストをやったことがある方は分かると思いますが、ひらめきに依存している点も否めないなと思っています。
例えば「〇〇を▲▲に拡大すると?」というテーマがあるのですが、アイデアを出すまでがあまり論理的ではないんですよね。ちょっとひらめき的な所を使うため、だんだん自分の中のひらめきが枯渇といいますが、ひらめき方もパターン化してきました。そこで、新しいアイデア出しの手法が学べたら・・・と思い、この本を手にしました。
※オズボーンのチェックリストを批判するような書き方になりましたが、視点の切り替えという点で良い手法だと思います。アイデア出しにそういったひらめきで出すのも、思わぬアイデアが出てくるかもしれません。冒頭に出たジョブスも、iMacを発売直後に5色のカラーを追加していますが、カラー提案を受けたその場で即断したといいます。製品の色を追加するという事は、商品の品質管理等の難易度が上がります。そのため論理的に検証して導入するかどうか進めるのが常です。そこをすっ飛ばし、即断し、iMacは大ヒット商品となりました。
本書を読んでみて
印象に残ったこと①イノベーション=新結合である
1章では「イノベーション」の定義を見直しています。そこで、イノベーションの定義をよく間違えているといいます。どんな間違いかというと、「イノベーション=技術革新」。え、そうじゃないの?と思う方は、ぜひこの本を読んでその洗脳(?)を解いて下さい。
本書では続けて、
「技術革新がないとイノベーションを起こせない」という認識を人々に与え、日本企業がこぞって「目的なき技術革新」に奔走してしまった
と、痛烈な言葉が並びます。さらに続きます。
「新しい技術を開発したが、何に使ってよいのかわからない」というのは日本企業でよく見る光景ではなかろうか
見ましたーーーー!私は特に先行開発というエンジニアよりの部署にいたので、よく技術スタートのアイデア出しをしていて、シーズ探索とかそんな言い方をしていました。色々調べてこんな新しい技術がありました!・・・で?ってなってしまうんですよね。
結局技術って、手段であって目的ではない。何か課題があって解決する方法も色々仮説がたてられます。最新技術を使って解決する方法もあれば、案外アナログな方法で解決するかもしれません。なんなら最新技術は準備が大変だけどアナログはすぐ出来るとか優位性も異なる。
ただ、課題が「火星に着陸するには?」のように人類誰も成し遂げていないようなスケールの大きい話だと、技術が先かもしれません。「火星を体感するには?」だったら、実際に火星に行く(=最新技術で解決)もあるし、火星の映像を大きなスクリーンに写したりそれっぽい土を集めてみたり・・・でも案外、火星を感じるかも?
本の内容に戻ります。イノベーション≠技術革新でないなら何なのか?というとイノベーション=新結合です。
新結合とは「これまで組み合わせたことのない要素を組み合わせることによって新たな価値を創造すること
つまり、何かと何かを組み合わせて新しい価値が生まれれば、それはイノベーションです。新しい何かが既存のもの同士で、新技術がなくても、です。ここでポイントなのが「新しい価値が生まれる」ことです。これがあるからイノベーションになります。例え既存の組み合わせであっても新しい価値があることで、顧客はそちらにシフトすると説明しています。
新結合には様々なパターンが考えられますが本書では、「二ーズ」「シーズ(技術やデータ等のアセット)」の新結合によるアイデア創造について解説しています。
イノベーションを生み出すアイデアの創出とは、数学的な問題に帰着させると、高い共感度のニーズ(Why)と高い実現可能性のソリューション(How)を生み出す、5W1H(Who、Where、When、Why、What、How)の新たな組み合わせパターン(新結合)の探索活動と言える。
イノベーション=新結合、は分かったけど具体的にどう考えるの?という疑問は上記に集約されています。ある課題またはお題に対し、5W1Hにまずは分解してみる。そして、それぞれを組み合わせて新結合を目指す、そんな流れになっています。
印象に残ったこと②デザイン思考はニーズや課題の抽出から始める
第2章ではデザイン思考について説明しています。デザイン思考とはすなわち、
「目的」がまずあり、それをうまく世の中に伝えるための「手段」としてさまざまな作品を創っていく、いわゆる「目的からの逆算思考」の考え方である
私はこのあたりを誤解していました。デザイナーとかクリエイティブな人は自分の感性でびびびっと表現するのかな、と思っていたのですが、違うのですね。そうではなくて、自分の中にあるテーマをどのようにして周りに訴えることが出来るのか?を逆算し、順序だてて考える。
ビジネス開発の現場に目をやると、まずは技術(シーズ)に関する研究開発やソリューションありきで、顧客ニーズ不在のままプロジェクトが進んでいることが多々ある
印象に残ったこと①でも触れましたが、技術開発したがどこで使うの?といった状態が多いと筆者は指摘します。私もそう思っていた時期がありました。とにかく新しい技術があれば使ってくれるでしょ!という謎の自信というか、顧客(またはユーザ)の存在が無い状態で考えていた事があります。
でも、なぜそのような思考になったのかな?と思い返すと、まだまだ新人でそもそも仕事そのものの理解が浅かったワタシに、〇〇という技術について調べて何かアイデア考えて、という漠然とした指示を受けたことを覚えています。そのため「技術を調べて、これを活用したらどんなことが出来る?」という考え方をしてしまい、顧客や使うユーザにとってどんな課題を解決しているのかは全く抜け落ちています。
こちらの本や色々紆余曲折を得て、アイデアを考える上で大事にしているのは「誰に」「どんな価値を与えるか」に行きつきました。すなわち、ニーズや課題が分かってこそ「誰に」「どんな価値を与えるか」が言えるのではないかと考えています。だからこそ、「デザイン思考はニーズや課題の抽出から始める」は大事な考え方です。
ニーズや課題が抽出出来て、どんな価値を与えるか?がおおよそ決まれば、次に考えるのは「どうやって実現する?」になります。そこで技術の出番です。新技術を使う、こんな技術と技術を使う、いやいやアナログなやり方でも出来るよね・・・?と様々な実現方法を考えるとき
アイデア出しの初期であるニーズ・課題抽出では、技術すなわち実現手段は一切考えないほうが良いと考えています。ニーズ・課題を考えているときに、無意識に技術的に不可能だから、と棄却してしまう恐れがあります。自分の中では実現できないでしょ、と思ってもニーズ・課題はどんどん書き出し見える化しておくべきです。なぜなら、他者がニーズ・課題を見たときに思いがけない視点で実現アイデアを出してくれるかもしれませんし、こんなニーズ・課題があるという事はこんなニーズ・課題もありそうだよね・・・あれ、これならこの技術使えるんじゃない?とどんどんアイデアが広がるからです。
なので、こんなこと書いても当たり前かもと思うニーズ・課題であっても頭の中に留めるのではなくて外に目に見える形で出しましょう!もしそのニーズ・課題に対して「当たり前じゃん」と一蹴し、周囲を萎縮させる言動をとる人はマナー違反ですので、気になるかもしれませんが気にせずに行きましょう!!!(アイデアを出す場では批判や否定はダメです。アイデアを創出する会議手法としてブレーンストーミングが有名ですが、そこの原則ともなっています。)
印象に残ったこと③テスト前にプロトタイプを作る
デザイン思考のステップとして、
共感⇒問題定義⇒創造⇒プロトタイプ⇒テスト
と定義されています。ここで本書では、
重要なポイントは2点ある。「共感から始まる」という点と「テストの前にプロトタイプを作る」という点である
「共感から始まる」という点についてですが、特定の課題も無い状態で活動をする事が多く、先ほどの印象に残ったこと②でも述べたように課題やニーズの抽出を行わないといけません。その時、誰にどんな価値をあるか?を考える事が大事なのですが、そのためには誰に(=ペルソナ)の輪郭をはっきりさせる必要があります。さらに、ペルソナはどんなとき(=シーン)に課題またはニーズを感じているのか?と解像度を高めていく。
つまりペルソナに共感する事で、隠れた課題やニーズを発見することができる。そのため「共感から始まる」事が重要ということになります。
ペルソナやシーンをはっきりさせる事で、課題やニーズが見えてくるだけでなく、チームの共有認識を持つ効果もあります。例えばペルソナを「35歳の大手企業で働く男性」とすると、様々な人物像を想定出来てしまいます。そこでもっと輪郭をはっきりさせる「35歳の大手企業でシステムエンジニアとして働く男性。1人暮らしで家事も行うが、効率化を重視するため、スマートウォッチやIoT家電を使いこなしている。最近は健康に気をつかって週2,3回は近所のスポーツジムで運動をしている。もちろん運動もスマートウォッチで記録をしている。」と書いていくとペルソナが分かりやすく、ではこんな課題/ニーズがありそうとより共感しやすいですし、チーム内でも同じ方向を向きながら考えやすくなります。
次に、「テストの前にプロトタイプを作る」。こちらもペルソナに対する何等かの課題/ニーズに対して解決する製品またはアプリなどがアイデアとして出てきたとしましょう。これを簡単なものでいいので見える形にしてお試しをする事が重要です。
簡単なもの、と言いましたが本当に簡単なものです。私もこれまで仕事で、あるロボット製品をアイデアで出てきたとき、ロボットを段ボールで模擬したことがあります。だいたいこのくらいの寸法かな?と切り貼りしてプロトタイプを作りました。
作りたいのはロボットなのに段ボールで何が分かるの?と思うかもしれませんが、これがばかに出来ないのです。ここのディスプレイがある見えやすそうでいいね、良い点に気づくこともあれば、逆にこの大きさだとペルソナは怖がってしまいそう、と新しい課題が見つかったりします。何よりも、最初に考えた価値を提供出来そうか?が頭の中で考えていた時よりもなんらかの実物が目の前にあることで、考えやすくなります。
これがもしアプリやウェブサービスだった場合は、紙でプロトタイプを作ることができます。紙芝居のように、ここをクリックしたらこの画面に切り替わるとかを試す事ができます。もちろんアプリやウェブサービスなら、既存のソフトウェアで作ることも今は容易なので慣れている人はそういうのでプロトタイプを作っていけばよいと思います。
プロトタイプときくと、なんだかすごいものを作らないといけない?と思ってしまいがちですが、全然そんなことはありません。ありものを使って、少しでも頭の中にある製品・サービスのイメージを可視化していくのです。こうすることで一気にアイデア出しのステップが進みますので、何かアイデアが出たら絵でもいいので、見える形にすることは私も強くおすすめします。
まとめ
今回は「破壊的イノベーションの起こし方 誰でも使えるアイデア創出フレームワーク」についての紹介でした。アイデア出しの段階で、どのように考えていけばいいのか分からない、といった方には参考になる本だと思います。またタイトルには記載がありませんが、デザイン思考を用いたアイデア出しについても学べます。
デザイン思考によるアイデア出しでは、こちらの動画もとても参考になりました。

特にアイデア出しを行う際に、「紙とペンを使い、なおかつ時間制限を設けて実施」は人の心理をうまく使ったテクニックで私は好きです(Udemyは結構セールが行われ、1,800円で出来る事がありますので、アカウント登録しておくことをおすすめします!)
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